Garden of Lapis Lazuli

刹那的生命の備忘録

東京という街について I - 吉祥寺 -

東北の片田舎から東京の大学に入学し、あまり外に出る性格ではなく図書館や周囲の街をふらつく事がほとんどだった.東京の中でも、原宿や渋谷、池袋、新宿や下北沢などのような都会中の都会とは一線を画している中途半端な位置に居を構えた.大学へのアクセスと大学生の喧騒から離れるという行動原理のみで決めた.

しかし自分の住む街とは異なるどこか心落ち着く街、行きつけの街というものを持つ人は少なくないだろう.例えばある人にとってそれは三鷹、ある人にとっては根津、そして神保町.その場所となるのは、人それぞれだ.そして、私にとってそれはおそらく、「吉祥寺」だろう.何度も足を運び、何度も街の空気を味わってきた.

吉祥寺と言えば、やはり井の頭公園が有名だろう.他にも象のはな子さんがいた井の頭自然動物園や、ハーモニカ横丁もよく知られている.所々に本屋や喫茶店もあり、若者にも人気な場所だ.平日でも人が絶えない街ではあるが、休日ともなれば家族連れやカップルで賑わっている.

私は、大学の退屈な講義の気晴らしやら鬱々とした気分を払拭する為に、時々この街の灯りに身を溶かした.街を形成する空気に自分を馴染ませるように呼吸して、漂う食べ物の香りや人間の匂いというものを嗅いだ.そうして、井の頭公園に向かう.

目的もなく
ただただ歩いて、歩いて、歩いた.

何度も歩き回ったお陰で、何処に何があるかは把握したけれど、日によっても時間によっても、来る人は異なっていて同じことはなかった.単に気付かなかっただけなのかもしれない.

その日も同じように歩いて歩いていた.丁度自然動物園の方から井の頭公園へ入って少しの、池の傍の木製のベンチに通りがかった時だった.時の流れる速度が緩やかになっていくような、そんな感覚を体験した.ある男の方(分かりやすいように、スナフキンさんとでもしておこう)(スナフキン氏がハープを弾くかどうかは知らないが)が奏でるハープの音色が、空間そのものの空気をがらりと変性させていた.

空間を伝わる波、降り注ぐ木漏れ日、池で反射する光、そして人という物質.それら全ての「波」の相互干渉によって、その空間が形成されていた.

何処までも、美しい世界だった.