好きな作家 I 【 綾崎隼 】
サイン会というものに、そこまで深い意味を見いだせていない。
前からそうであるし、今もそこまで。
特に作家が産み出すものは、物語や言葉であって作家個人の肉体、身体的な特徴に惹かれているわけではない。
アイドルや俳優、モデルという職業は自らの身体の特性を知り、それを生業としている訳であるから握手をするなどには価値があるのだろう。
サインというものが価値を持つのは書道家や文字を書くことを生業としている人たちではないのだろうか、と感じている。
そんな私が唯一作家のサイン会というものに足を運んだのは、綾崎隼さんのサイン会一度きりだ。
サイン自体に価値を見いだせていない私がサイン会に行くのだから、合理的な理由があるのかと思いきや、私の中で生まれた衝動は非合理的だった。
彼という人間に興味があった
あの美しくて哀しくも愛おしい物語を綴る人間
どういう反応をする人間なのか
どのような思考回路をしているのか
どのような相互作用になるのか
実際、サインをしてもらった事自体ではなく交わした短い会話と実際の彼の姿というものを観ることには価値があったと思う。
特に、彼は一度も自身の顔写真を載せたことがなかった(見つけた覚えがなかった)から、その姿を「綾崎隼」としてみる事ができる人はレアだ。だから、実際の対面はそういった希少価値が付与されている。
そして短い会話だけでは人となりという事までは分からないが、それを伝えてくれる物語を読んでいるのだから、少しの会話で不足分を補完できる。
とても優しく、勁い人という印象だった。
弱い私からすれば、憧れてしまうほど。
あの繊細な物語を綴りながら、どうして勁く在れるのか、知りたかった。
私も勁くなりたかった。
彼のような美しい言葉を生みだしたかった。
サイン会に行けたのは、そういった観察が出来たという点で、非常に有意義なものだった。願わくば、もっと話してみたかった。
彼が今後産み出す物語も、非常に楽しみだ。